(何かしらの導入)
『…という訳で明日から一ヶ月ホテル暮らしになります』
”という訳で”の前の説明が日本語の筈なのに全く頭に入って来なかった。
最近帰りが遅いと思ったら珍しく他人の尻拭いをしていたらしい。要約するとそういうことだった。
流石にこの歳になってくるとまあこういう事もあるだろうという気持ちで咎める気も嫉妬も起きない。問題はそこではなく、膝の上で今のところは静かな小さい怪獣のことである。
『分かりましたか?』
彼女は子供相手にも言葉遣いを一切変えない。最初は多少面食らったが結果的に子供の言語野の発達が早いので助かっている。ああ、二人を見ているとどんどん思考が主旨からずれる。問題はそこではない。
「………。」
沈黙が怖すぎる。
娘はどちらにも懐いているが、母親が全く居ない状況を経験させるのは始めてだ。
恐る恐る顔を覗き込んだら…平然としていた。
「わかりました。ぱぱをまもります」
『お願いします』
「なんで?」
こうして一ヶ月間小さいねことの生活が始まった。