唯言

(何故彼女視点にしないのか)

 

 

 どうして彼の為に、ですか。

 彼の話…ううん、嫌ですねえ。

 嫌いなのかって?ふふ、あなた馬鹿なんですね。

 

 人好きがする顔して、実際人好き。頼まれたら何でもやっちゃう。ふわふわしてるから誰にでも寄りかかられて、でもにこにこして受け入れてしまう。それがあの人ですよ。つい先程まで見ていたのだから分かるじゃないですか。

 …まあ、聞きたいのはそういう話じゃないですよね。

 

 あのひとね、何もかもがどうでも良いんです。

 その気になれば何でも手に入るから「ああこれは手に入るな」って思った瞬間にどうでも良くなるみたい。教師なんかやっているのも無意識にそれが理由でしょうね。必ず短期間で別のものになって巣立つから毎日楽しいんじゃないですか。

 それでいて、手に入らなさそうなものは珍しいから、何をしても手に入れたいんです。

 何をしてもね。

 そういうやり方は最も拒絶されるって賢いあのひとならとっくに気付いている筈なんですけれどね。まあ、解っていて蓋をしているのか、本当のところは解っていないのかもしれない。私にはどうでも良いことです。

 

 ところで、私境界線って概念が好きなんです。第一定義なんて須らく欺瞞ですからね。

 だからゼロかイチかを行ったり来たり。あのひと私のことをよく猫に例えますけど、私からしたらあのひとの方がよっぽど猫ですよ。ちらつかせるほど目が、手が離せなくなる。

 生温くなってきたら私は逸脱する。引き戻すあのひとの大きな手が強く締めるから、それが次の私の形を造る。そうして私はまた甘くなって、薄皮一枚だけ冷たい顔をしてあのひとの腕の中に戻るの。その繰り返し。

 

 

 とても素敵でしょう?今際の際に聞く恋物語には過ぎた上等です

 

 

 ええ、これが理由ですよ。

 次はちゃんと賢く生まれてきてくださいね。