1〜10

         10

 

1.呪日

 祝日ではなく呪日。間違いなく今日の所にはそう書いてある。

 何度も見直したし、携帯のカレンダーでも確認したがやはり今日は呪日だった。

 気を取り直して洗面所で顔を洗う。

 顔を上げると、左肩に知らない女の顔があった。

 

 

2.有給休暇

 辛い仕事の合間に無理を言って休暇を取ることが出来た。嬉しくて堪らなかった。

「有給休暇だーーーーーーーーーー!!!!!」

 男は叫んだ。

「あああああああああああーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!」

 叫んだ途端に四肢がもげた。

 

 男はすぐさま病院に運ばれて緊急手術を受けた。

 出血が多く一時は絶望的な状態だったが奇跡的に回復した。

 そして、今日が退院日だ。嬉しくて堪らなかった。

「退院出来たぞーーーーーーーー!!!!!」

 男は叫んだ。

「あああああああああああーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!」

 叫んだ途端に頭が弾け飛び胴体だけがその場に残された。

 

 

3.継続

「今まで色々な仕事をやってみたんですけど、どうしても続かなくて…。

 でもこれだけは今でも続けられているんです!

 続けているうちに実力も付いて、自信も付きました!

 やっぱり続けることって大事ですよね。」

 (40代主婦・呪い代行)

 

 

4.ジコショウカイ

[自己紹介]

 ぼく、さなぎ。

 とろとろ、ふわふわ。

 まだ何も知らないの。

 ぼく、さなアッ、潰された。

 

[事故傷壊]

 …僕、死体。

 汚物の腐った液汁が詰まった嚢。

 全てを知り、凡てが終わった。

 

 

5.小指湿布

<一日目>

 なるほど確かにスッキリ目覚められた。

 しかし右肩の重みが取れない。

 もうしばらく様子を見よう。

 

<二日目>

 畜生!肩が重い!

 役立たずの指め、てめえなんざ切り落としてやる!

 

<三日目>

 私は何をやっていたんだろう。

 私は生まれつき両手の小指が無い。

 この日記も見覚えが無い。

 

 

6.豚

 ふと思い立って頭の先から爪先まで全ての毛を抜いた。

 

 全裸で鏡の前に立つ。引きこもっている肌は白く、華奢な体つきはしかし筋肉が少ない為引き締まってはいない。

 私は鏡から目を離さずに四つん這いになった。

 風呂場の湿り気は音を吸い込み無音に近い状態になっていく。

 …何だか豚みたいだな。

 私はそれに唐突に気付き、腹の奥から湧き上がる笑いは徐々に風呂場の中に響き渡っていった。

 毛が生えていないと、人間は豚なのだ。

 私がどんどん豚になる。

 いや最初から豚だったのだ、毛が生えていたから騙されていただけだったのだ。

 私は豚だ。豚だ。豚。

 

 

7.何となく大殺界

 男は何となく死ななくてはいけない気がしていた。

 その理由はというと正に何となくという言葉以外は何物も相応しくなかった。男は淀みない足取りで近場の自殺の名所に向かい、何となく選んだその辺の木にロープをかけ首を吊ろうとした。

「だめっ、命を粗末にしてはいけないよ!」

 そこに地元の中学生が声をかけた。男は確かにその通りだなあと思い自殺を思いとどまり、その様子に何となく殺意が湧いた中学生に絞殺されて死んだ。

 

 

8.K

 例えば懲役30年だとする。

 その間の受刑者の衣食住は刑務所内で全て賄うことになる。刑務所が捻出する費用は、刑期中に彼が生産する小さな部品を売り払った金などではとてもカバーできない金額である。

 時代と共に犯罪者が増え、善良な国民が支払う税金が増え、無職者がわざと犯罪を犯し刑務所に入る件数が増えた。国はもう新たな制作を打ち出さなければ崩壊する所まで来ていた。

 

「368番、入れ」

 八倉(やくら)は声を上げた。

 彼は医者で、368番というのは次に自分が診る囚人のことである。

 看守に身体を両脇から支えられた368番が入室してきた。頭髪と歯が抜け、頬はげっそりと痩け、一人ではもう立って歩けない程度まで衰弱している。傍目から見ても呼んだところで返事が返ってくることなどありえないと判断できる。

 それでも八倉は儀式的に声を出す。いつでも、誰にでも。

「前回までの"服役"はどうだった?」

 看守に無理矢理椅子に座らされた368番は頭皮を掻き毟りながらカタカタと膝を鳴らした。

「こわい、こわい、アレはいやだ、こわい」

「お前が犯した罪を反省したか?」

「こわい、こわい、こわい」

「お前が殺した女の子はもっと怖かった」

「こわいこわいこわいこわいこわい」

「なあ、お前が真面目に"服役"をすればそんな事は感じないんじゃないか?」

「こわいんだよおおおおおおおおおおおああああああああああああああこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこっここ」

 368番はこっこっこっこっと意味不明な奇声を上げ続けた。

 二人の看守は厳しい視線を崩さない。その眼が八倉に「いいから早く"服役"させろ」と物語っていた。

「…本日の"服役"を行います」

 八倉は宣言し、看守は「宜しくお願い致します」と応えた。

 368番を寝台に寝かせ四肢をしっかりと固定する。専用の電子ヘルメットを頭に付け、脈を取るためのバンドを利き腕に装着する。最後にゴーグルをかけさせる。

 看守達がそのような作業をしている横で、八倉は自分の仕事を開始した。動脈パランサーを立ち上げ、注射器に薬をセットしてカルテを確認する。

「本日の"服役"は懲役10年~11年までの1年間です。では開始します」

 八倉は368番の静脈に注射器を刺した。

 

 国が打ち出した新政策は刑務所の服役に関する問題を抜本的に解決した。

 時間と共に費用が嵩むならその時間を短縮してしまえば良いのだ。

 とはいえ本当に刑期を短縮してしまっては受刑者の健全な更生に支障が生じるし、被害者はじめ世論の反発も避けられない。

 そこで政府が主体となって仮想時間システムが開発された。受刑者の頭に電磁波を浴びせた状態で投薬を行い、6時間で1年間分の"服役"を行わせ る。受刑者の脳内で流れる仮想時間は現実と地続きで、システム内の体感時間は現実と寸分狂いもなく同じである。また、刑の内容も現実で行っている内容その ものである。

 この開発により受刑者の刑期が大幅に短縮された。懲役は現実時間と仮想時間の合計で換算され、「懲役30年」を実質1年足らずで終了する事が可能になった。

 政策は広く国民に知れ渡り、まず犯罪の件数が減少した。これは未知の刑を恐れたからだと言われている。当然血税による負担も減った。政策は大成功だった。

 

 368番の"服役"が完了する間は看守が見張ることになっている。

 受刑者の体調やパランサーに異常が検出された場合は医者の個人端末に直接連絡が飛ぶようになっているので、その間医者は基本的にただ悠々と待っているだけで良い。

 この時間を使って、八倉は刑務所建屋の屋上で煙草を喫むのが日課となっている。

「あいつももう駄目だろうな」

 サロメを擦る音と屋外で走る受刑者の掛け声が混ざり合って反響し合う。ここに来ると独り言が増える。

 さして美味くもない煙が充満したのを感じながら、八倉は大きなため息をついた。

 

 ずっと気になっていることがある。

 何度も何度も死刑囚を使って動作テストを行ったはずのこのシステムだが、何故か一定の確率で先程のような精神摩耗者が現れるのだ。

 公式見解では、遺伝的なものか、刑の短縮を目論んだ佯狂であると発表されている。そのため精神摩耗者となった受刑者に対する具体的な措置は定めら れていない。"服役"のマージンを増やして現実時間とのバランスを調整するよう取り計らう刑務所もあるそうだが、それも模範囚に限ったことだろう。

 八倉は彼らが仮想時間の中で一体何を見てそうなったのかが知りたかった。

 そのため、あえて前述のような配慮を全く行わない厳しい刑務所に勤務している。そして彼らに尋ねている。医者がよくよく効能を知らぬ投薬を行う今の現状が、八倉には何よりも許し難いことであった。

 だが余計な時間を取らせる八倉のやり方は看守達には好まれず、結局答えは出ないままずるずると同じ事を続ける羽目になっている。

 吐き出した煙が何度目かの雲との同化を終え、八倉は気怠い腰を上げた。

 

 

9.治験

 金策窮じて治験に手を出すこととなった。

 食事に混ぜるタイプの新薬の治験らしい、ただ食事をして過ごすだけで良いようだ。何て簡単なんだろう。私は普段とほとんど変わらない食事を食べ、あとはDVDを観たりインターネットで遊んだりといつも通りの生活を送った。

 治験期間が終了して久しぶりに外に出ることになった。あれから別に体の異常も無い。本当に楽なバイトだったなあ。

 あ、そうだ、これから一年は定期的に病院で検査を受けろってさ。まあそんなものか。

 

 

「…結局どうなさるのですか」

「経過も問題ないし、行けるだろう。決定だ」

「こんな物が本当に市場に出回るのですか」

「治験者達には未だに副作用も異常も見当たらない。どこに問題があるというのだ」

「材料に決まっているでしょう。幾ら食糧問題が深刻だからといって、これは余りに酷過ぎます」

「ふん。人間が自分達で蒔いた種じゃないか。それに元々、人間は飢えたら共食いをして生き延びてきた種族だ。共食いで凌いだ先祖無くして今の我々はありえない違うか?え?」

「…。」

「ま、知ってしまったら夢見は悪いだろうけどね。まさか自分たちが食べていた食事が、堕胎した胎児からできていたなんてな。ハハ」

「先生…僕は貴方が恐ろしいです」

「言ってろ青二才。最早食うか死ぬかなんだよこの国は。…最も、国民はそれに気付いちゃいないがね」

 

 

 ~安価で栄養満点!ユリカゴ食品を是非ご賞味ください!~

 あ、またユリカゴのCMだ。最近多いなあ。

 そういえば、あの時の治験で食べていた食事って今思うと何となくユリカゴの味に似てたんだよなあ。もしかして薬と一緒に食べていたのって、ユリカゴの新製品だったりしたのかな?何か得しちゃったなあ。

 

 

10.AKITA

 飽きたのだ。

 毎日同じことをして、年だけが無駄に重ねられて、気付いたら三十に手が届く年齢になってしまった。

 ずっとこのまま緩やかに円を描いて下降するような時間を過ごすなら、いっそ危険な賭けに出た方が良い。

 

 ポストイットに「飽きた」と書いた。

 どうせならと指先を切って血で書いた。芋虫のような指では一枚に一回書くのが限度だった。書き終わる度に壁に貼っていった。何枚も書いた。何枚も。何枚も。飽きた飽きた飽きた飽きた。

 

 沢山の飽きたに囲まれて眠ったが、次の日もその次の日もまたその次の日も結局同じ日々が口を開けているだけだった。

 本当に飽きたのに。

 ウランの湖の周りを走るのも、第五恒星人との念話に応答するのも、地球でたった一人の生き残りとして祭り上げられて衛星ケーブルの番組でそれらしいことを語るのも、もう全部飽きたのに。

 

 今日はラジウム鉱山に登ってみよう。

 山のような飽きたをエア・カーに詰め込み、私はアクセルを回した。